部屋の電球が切れたので近くの電気屋まで買いに行ったその帰り、彼と出会った。夏休みに入ってから一週間。まだ来週の打ち合わせまで会えないと思っていたこのタイミングはとても嬉しい。ハズなのに、あまり喜べないでいた。
彼のとなりに、あの写真の少女がいた。彼が生徒手帳に はさんでいたあの写真。私が知らない少女。そのふたりが並んで立っていた。
「ああ、幼なじみなんだ。」
「中岡麻子です。」
そう名乗った彼女は礼儀正しく一礼をして、私に微笑んだ。
「浅野季沙です。坂本くんには、学校の委員会でお世話になってます。」
「へえ、何やってるの?」
彼に向きなおり麻子が訊く。それに対し、今まで見たことないような照れた表情を浮かべて彼が答えた。
「……副委員長。」
「学級委員!?まことが?」
「そんなに驚くことないだろ。」
彼の照れた表情が更に強くなる。対して、私の表情は自分でも分かるほど暗くなるばかりだ。
「じゃ、じゃあ、私はこれで失礼するよ。また来週、学校で。」
「あ、ああ。またな。」
引きつった笑みしか出せなかった私は少しでも早くそこを離れようと、駆けていた。
「ねえ、姉さん。」
「なんだい。帰ってきて早々何も言わずにベッドに もぐり込んで、こっちが声を掛けても何とも返事をしなかったわが妹よ。出前で頼んだ莱来堂のラーメンなら今しがた あたしが二杯目を完食したところだよ。」
「ひとりで食べちゃったの!?わたしの分まで!」
「元気じゃないか。これで太ったら季沙のせいだかんね。」
「ウエストを気にしたことないひとがよく言うよ。」
「それで、どうしたって?」
脱力しながら、私は昼間の出来事を話した。
「生徒手帳に写真入れるヤツなんて今時いるんだ!あははははは!」
そこまで笑わなくても……。実は私も入れていたりするのだ、彼の写真を。
「ひぃ。……ああ〜。まぁ、元気出しなって。妹かもしれないじゃん。」
「幼なじみだって紹介された。」
「でもだからって、付き合ってる訳じゃないんでしょ?」
「写真持ってるんだよ?少なくとも、片思いだって。」
「………えーと。」
姉さんはフォローのネタが切れたらしい。冷蔵庫を開けて麦茶を飲み始めた。
「はあ。」
長い沈黙が流れる。
ダメだなあ、わたし。どうしてもっとプラスに考えられないんだろ。落ち込むばかりだ。
「姉さん。諦めた方がいいのかな?」
「それは早いんじゃないかな。まだはっきり分かったわけじゃないし、自分の気持ちにケリはつけた方がいいと思うよ。」
「告白しろってこと?」
そんなの、無理。
「フラれても、その方が清々しいでしょ。やれることはやっときな。」
「……告白なんてしたことないくせに。簡単に言うね。」
「あはは。」
「でもありがとう。決心がついたら、考えてみるよ。」
「そっか。うん。ガンバんな。」
このひとが姉で本当に良かったと、改めて感じる。こんなにもわたしのことを想ってくれて、わたしの心を守ってくれる。わたしは、このひとの妹で本当に良かった。
「ところで姉さん。わたしの夕食は?」
「あ、あ〜。……うん、ダイエットってことでOK?」
「いいわけないでしょう。すぐに何か作って!」
「はいかしこまりました!」
たまに、こういうこともあるけれど……。
季沙:誠のことを好き。
誠:麻子に片思い。
麻子:誠は幼なじみ。
沙季:季沙LOVE!
莱来堂(らいらいどう):季沙たちが住む十牧(とまき)市を拠点に、都内15ヵ所で営業を展開するラーメン店。バリエーション多彩なメニューがあるが、ベーシックな「しょうゆラーメン」が一番人気。
近々ライバル店である辰珠館(しんじゅかん)の本拠地、岩音(いわと)市に16号店がオープン予定。
ちなみに桔咲(きさき)市にある莱来堂10号店では、誠の妹の泉水(いずみ)がバイトで働いている。
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