2009年11月29日

その少女、委員長。

―・Izumi Sakamoto・―
 私は委員長。名前は坂本泉水。
 幼いときからかなりの近眼で、両親がそれに気づくまでよく物にぶつかったりしてよく泣いていたそうだ。ところでそれはともかく、そんなわけで、私は幼いときから眼鏡をかけている。
 性格は内気なほうだと思う。自分から進んで意見を出さないし、社交的でもない。人見知りをするところがあるので極力人と話をしたくない。友達は幼なじみの子が一人いるくらいで、その子も今は海外に留学中。なので今の私には友達がいない。クラスではいつもスタンドアローンを決め込んでいる。それが私だった。
 …だというのに、私は委員長になった。学校のクラスの委員長になった。もちろん自ら進んでではない。
 中学一年の頃。新学期恒例の委員会メンバー選出。私はいつも図書委員をしていたのだけれど、その期はじゃんけんに負けてしまいなれなかった。余っていた役職は委員長と副委員長。新手のいじめかと思った。でも私はなるべく目立たなさそうな副委員長をと思い希望を出したが、聞き届けられなかった。仕事が無い副委員長の役はサボタージュ常習犯の生徒に決定済みで、もう委員長しか残っていないとのことだった。この日ほど世界の理不尽さを嘆いた日は無かった。冷蔵庫の奥に隠していたプリンが吹き出し口の前にあったせいで凍って食べられないものになってしまった時よりも嘆いた。
 以来、私はクラスのみんなから「委員長」と呼ばれるようになった。なぜか先生までもがそう呼ぶようになった。せっかく図書委員になれた去年でも、呼び名は「委員長」で変わらなかった。それどころか現職の委員長までもが「委員長」と呼ぶせいで他のクラスの先生が誤解して委員長の仕事を私に押し付ける始末だった。
 だから私は決意した。私の学校生活を狂わせたあの男への復讐を。あの時サボタージャーだからといって副委員長になり、私を、私の名前までをも委員長にせしめた男。藤堂隆利!
 ……まだ顔も知らないけど。
 私の名前は坂本泉水。委員長ではない。

posted by 秋雲 at 23:40| Comment(0) | TrackBack(0) | ARS D-side | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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